ガラスの靴を振りかざして6_緑 (ページ41)

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一方、グループチャットも荒れに荒れていた。
それはもう、絵に描いたような混乱っぷりだった。

朝、田ノ上さんから注意喚起の連絡が送られてきたと思ったら、昼過ぎには『Aちゃんが襲われて怪我した』なんてアホみたいな通知がくれば、誰だってびっくりするだろう。
さまざまなアイコンが阿鼻叫喚するトーク画面。
というか、これに関しては田ノ上さんの送り方も悪いと思う。
現場に急いで駆けつけなければいけない事情は分かるし、すぐにケータイに触れない状況だというのも理解できるが、だとしたらもう少し言い方ってものがあっただろうに。

あんな文章だけポンと送られてきてその後の音沙汰がなければ私だってビビる。
しかもそれがメンバーの誰かだったとしたら冗談抜きで心臓が止まるかもしれない。

誰もいない廊下。
メンバーやマネージャーの吹き出しをスクロールしながら、何度も書いては消し、また書いては消してを繰り返しながら文章を作っていく。
出来上がったのは『お騒がせいたしました。A、無事です。詳細は後ほど共有させていただきますのでご心配されませんように』と事務的とも素っ気なくとも受け取れる文章だった。

愛想のない文面で申し訳ないと思いつつ、グループチャットの方にはひとまずそれで落ち着いてもらいたい。
送ったとたん、ものすごい勢いで既読数が増えていくのが見えたものの、返事がくる前にさっさとケータイをリュックにしまった。

リュックの中で淡く光るもう一つの画面。
プライベート用のケータイだ。
手を伸ばしタップすれば、こっちにも同じようにいくつか通知が来ていた。
誰かと思えば、阿部さんだ。
阿部さんから鬼のような着信と、

『連絡ください』

句読点もスタンプもない。
そんな、シンプルなチャットが1件。

会いたい。
さっきはなんとなしに思ってしまったが、実際にこうして連絡が来ると手放しでは喜べないもんである。
しかもわざわざプライベート用のケータイの方に。

車の中で散々…それこそ嫌われる覚悟で阿部さんを冷たくあしらって引き離したつもりが、結局、彼を巻き込んで迷惑を掛けてしまった。

両手でケータイを握ったまま、息を吐くようにため息が出た。
こうしててもしょうがないのは分かっている。
阿部さんにはきちんと、連絡しなきゃいけない。

分かってはいるけど、気が重いのだ。

『連絡ください』という画面の文字を穴が開くほど見つめて、もう一度、大きくため息を吐いた。