ガラスの靴を振りかざして6_緑 (ページ24)

今日:17 hit、昨日:175 hit、合計:164,189 hit

24 ページ24

＊

反射的に体が硬直したものの、一瞬で履歴書に貼り付けられた顔ではないと判断する。
ホッとして、首の後ろから後頭部あたりに張り付いた緊張感を緩めていく。
失礼にならない程度に彼女をまじまじと観察すれば、本当にこの人が声を掛けてきたのかと疑いたくなるような、大人しそうな…悪く言えば地味な容姿だった。

私と対峙するなり「あっ」と小さく声を上げて恥ずかしそうに顔を俯かせた彼女の手元には、今まさに声援を送るのに使っていただろう阿部さんのうちわと、手作りの洋服を着せたすのチルが握られていた。

見た目は…二十代後半くらいだろうか。
胸元まで伸びた黒髪を緑色のリボンでハーフアップにまとめ、白いワンピースを着ているその姿に既視感があった。
というのも阿部さんが雑誌のインタビューなどで時々口にする「理想の彼女像」そのものだったからだ。
ただし、この界隈ではメンバーの好みの服装や髪型を真似るのはよくあること。
彼女のような服装や髪型をしていても、さして珍しいわけでは無い。

さて、私はどう切り出したらいい？
そう悩んでいるうちに、ありがたくも彼女の方から話をしてきた。

「あのっ……よければ、受け取っていただけないでしょうか」

これ、とピンク色の可愛らしい小ぶりの紙袋をフェンス越しに差し出され、私は手を伸ばすことなく目視で確認するなり、すぐに申し訳なさそうな表情を作って首を横に振る。

「すみません。タレントへのプレゼントはお預かりできないんです」

これもまた、よくあること。
会社宛てに送っても受け取ってもらえるか分からないという理由で、現場のスタッフに直接声を掛けて手紙やプレゼントを渡すファンは少なくない。

なんだ、そういうことかと思う反面、それよりも、声掛け同様に一見大人しそうに見える彼女が、こうも大胆なことをするタイプに見えなかったのでそっちに驚いた。

受け取れず、向こうも向こうで引っ込む気配のない紙袋がフェンスの上で所在なさげに揺れている。
薄情だと思われているだろうか。
行動に比例しない彼女の控えめな視線が私の良心に訴えかけてくるが、受け取れないものは受け取れないので仕方がない。

こう着状態だった。

で、その次はどうすればいい。
考えあぐねていたとき、ふいに背後の扉が内側から開いた。