ガラスの靴を振りかざして6_緑 (ページ22)

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別に、どちらでも構わない。
私にも、そして阿部さんにも一つも関係ないことである。

マネージャーという仕事は、コミュニケーション能力や管理能力はもちろんのこと、それらを含めて総合的な人間力が必要とされる仕事だ。
私にそれが備わっていたかと聞かれれば正直なところ答えはノーだが、でも私なりに理解し、学び、日々努力を重ねている。

当然ながら私利私欲にまみれ「ファンだから」「彼を支えたいから」なんて視野の狭い、飯事みたいな簡単な理由が原動力で続けられるほど甘い仕事なんかじゃない。
それにマネージャーはいざという時にタレントの盾になることはあっても、自ら敵を作り出し、自己を前面に出して主張するなんてことはあり得ないのだ。

私にだってプライドはある。
それは彼女のように己に対してのものではなく、仕事に対してのプライドだ。
だから当然、彼女のような考えを持った人間を一ミリたりとも理解することも、受け入れることもできるわけがない。
彼女の考えは根本から、間違っている。
根本から。

生放送が無事に終わった。
エンディングまで何一つ問題なく乗り切った。
スタッフさんの「以上となります、ありがとうございました！」という元気な掛け声に安堵したように息を吐いた阿部さんが、私を探すようにこちらの方へ視線を彷徨わせる。
目が合うと少しだけ彼の目が細まった。
私もお疲れ様でしたの意味を込めて小さく会釈を返す。

収録が終わるなり音声スタッフが出演者に駆け寄り、ピンマイクを外して回収していく。
その様子を眺めながら、制限のなくなったファンの、阿部さんをどうにか引き止めようと名残惜しそうに名前を呼ぶ歓声が次第に大きくなり始めていた。

スタッフさんが場を鎮めようと動き出すよりも早く、阿部さんが一歩前に出る。
色めき立つファンの人たちを見渡し、深々と一礼したことで数百人規模のざわめきが大人しくなった。
登場した時と同じように、にこやかに手を振りながらスタッフに先導された彼が関係者出入り口に案内され、局内へと入っていく。
阿部さんらしい、実にスマートな対応だった。

最後まで見送ったファンは感無量といった様子で頬をピンク色に染めながら、友人や隣り合わせたファン同士、恍惚とした満足そうな表情を浮かべながら談笑している。

その様子を見ていた吉野さんが、阿部さんの行動を絶賛し、舌を巻きながら寄りかかっていた壁から離れた。