ガラスの靴を振りかざして6_緑 (ページ21)

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この言いようのない感情の正体が怒りだと気が付くのに時間は掛からなかった。
諦めの多い私の人生において、とうの昔に萎びていたと思っていた感情だ。
まだ残っていたのかという驚きと共に、久方ぶりに顔を出した怒気をうまく受け流す事ができず叫び出しそうになる。

矛先は、この場所にいるかどうかも分からなければ、実態すら掴めていない、履歴書を送ってきた彼女。

どす黒い、ヘドロのような薄汚いイライラは、絶え間なく腹の底から湧き出ていた。

もし、もしもだ。
全てが履歴書の経歴通りだったとしよう。

これはあくまで持論だが、例えどんなに勉強ができようが、高学歴だろうが、有名大学を出ていようが、世の中には適材適所という言葉が存在する。
彼女がマネージャー業に向いているかと聞かれれば、私は到底そうは思えない。

阿部さんの足元にも及ばない、私の見窄らしい芸歴を引き合いに出して彼女はこちらの無能さと才能の無さを嘲笑ったが、そもそもマネージャー業と役者業では土俵が違う。
それにこっちだって遠慮せず言わせてもらえば、ほんの少しでも芸能界に身を置いていたからわかることだってある。

お前こそこの業界を舐めるなよ、と。

この業界には実に様々な人がいる。
憧れて入った人、なんとなく入った人、邪な理由で入った人。
どんな業種であれ、どんなきっかけであれ、大成する人は大成するし、売れない人はいつまで経っても売れないし、出世もできない。
惜しみない努力をしても、それが必ずしも身を結ぶ世界ではないことは否定はしない。
でも少なくとも、いま私の周りにいるタレントさんやマネージャーさん、スタッフさんたちは、
自分以上に誰かのために一生懸命努力したり、頑張れる人たちばかりなのだ。

これだけはハッキリ言える。
誰一人として誰かの足を引っ張ったり、ましてや仲間を貶めたりする人なんていない。

そんな環境に身を置いている私からしてみれば、彼女の異常性は際立っていた。

履歴書を送りつけてきた彼女はきっと自信家で自分自身に対するプライドが異様に高く、人を比較し、見下し、献身的であるどころか、他人を不幸にしても自分が幸せにならなければいけないと考えるような人間だ。
もしくは履歴書の内容が全て嘘偽りだとすれば、実際には真逆の人物で、社会的ステータスに強烈に憧れるがあまりに異様なまでのコンプレックスを持ってしまった私以上の劣等感の塊か──…

そこまで考えたところで考察を止めた。