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横目でチラチラと伺いながら、彼の行動を観察してみる。
ガサゴソと分かりやすく音を立てて何かと思えば、人の荷物の中からプライベート用のケータイを探り当てたところで阿部さんの意図を理解した。
「こら」と軽く声を掛ける。
だけど無視され、まったく動じる様子がない。
それどころか、こちらが運転中にケータイを奪い返せないのを良いことに、彼は勝手にロックを解除しようとパスコードを入力しようとしていた。
見られて困るようなものはないけど、そういう話じゃない。
本当に何してるの、この人。
「ねぇ、本当に怒るよ」
「やめてください」と二回ほどやんわり注意してもやめなかったので、三回目に語尾を強めてピシャリと言い放ち、ようやく画面の上を彷徨いながら動いていた指が止まった。
阿部さんがジーッとこちらを見つめている気配がする。
左頬に突き刺さる視線。
私のケータイをしっかりと握りしめたまま、リュックに戻す気はないらしい。
「俺にも田ノ上さんが送ったその人の履歴書見せて。証明写真も貼ってあるんでしょ？」
見せて、と阿部さんは単刀直入にせがんだが、私は正面を向いたまま首を二度横に振った。
「ダーメ。そもそもそれが本物だっていう確証もないし、いくら阿部さんのお願いでも見せられない」
「なんで」
「このあとの仕事にちゃんと集中して欲しいから」
視界の端で阿部さんの表情が歪んだ。
「だってAさんが危ない目に遭うかもしれない状況なのに、」
「その時はその時」
「……なんでそんなこと言うの？こっちは心配してるんじゃん」
分かりやすく阿部さんは声のトーンを下げて拗ねたが、その程度のことで私の気持ちは揺らがない。
揺らがせてはいけない。
あくまでもこの状況をメンバーに知らせたのは、この件について把握だけして欲しかったから。
もしアクシデントが起こった場合、我々マネージャーはタレントである彼らを守り、真っ先に避難させなければいけなくなる。
そのための情報共有であり、間違っても私を守るためだとか、協力を要するための理由じゃない。
これはチーフマネージャーである田ノ上さんと私の共通認識だった。
車は順調に走っている。
ウインカーを出しながら車線変更すると高速道路に乗った。
免許を取得して一ヶ月程度経ち、それなりに運転頻度が高い方だとはいえ、未だに高速を走らせるのは緊張する。
後続車に注意しながら本線に合流し、バックミラーを確認したところで大きく息を吐いた。
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年3月6日 17時
