ガラスの靴を振りかざして6_緑 (ページ1)

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February ページ1

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お正月に風邪を引くという騒動も、もはや過去の思い出になりつつある二月の上旬。

いつものように朝の支度をしていると、付けっぱなしにしていたテレビから「今日は朝から雲一つない快晴です」という明るげな気象予報士の声が聞こえ、思わずコーヒーを飲む手を止めた。
聞けば、三日程度ぐずついた天気も嘘のように晴れ、下降を続けていた気温も四月上旬並みの暖かさになるとのこと。

マグカップをテーブルに置くと、すぐに脱衣所まで向かう。

負け戦をしない慎重派な私は、天気が崩れそうな日にわざわざ洗濯をしたりはしない。
なのでここぞとばかりに溜めに溜めていた数日分の洗濯物を、一気に片付ける絶好のチャンスだと思ったわけである。

洗濯機を回し、ついでだからと家中の床に掃除機を掛け、クイックルワイパーで拭き掃除もした。
ダイニングに戻り一旦ソファに座ると、それでもまだ時間に余裕があったので、エンタメ情報の流れるテレビを横目に、途中で放置したコーヒーを啜りながら他に出来ることはないか考える。

洗濯は今やってる。
床掃除は終わった。
となれば、この際だし風呂掃除もしておくか。

すっかりやる気になった私は意気揚々とブラウスの袖を捲る。
それとほぼ同時に、ケータイが鳴った。
着信だ。

目の前のテーブルには二台のケータイ──社用とプライベート用のものが並べて置いてあり、今まさに鳴っているのはプライベート用のケータイである。

まだ7時前だというのに、こんな時間に起きていて、わざわざこっちのケータイに連絡を寄越す人なんて一人しかいない。

液晶画面に映る名前は想像した通り、阿部さんだった。
軽く息を吐いてから電話に出た。

「おはよ、Aさん」

「おはようございます、阿部さん」

「少し早いんだけど、準備出来たから今からそっちに行ってもいい？」

向こう側から聞こえる、のほほんとした阿部さんの穏やかな声に、思わず顔が綻んでしまう。

電話を切って時計を確認する。
阿部さんが私の家のインターホンを鳴らすまで約3分。
とりあえず風呂掃除はまた今度にするしかない。

グレーのジャケットを羽織り、リュックを背負う。
ダッフルコートとマフラーは手に持ち、テレビと照明を消したついでに火の元の確認も忘れない。

ダイニングを出たら一旦洗濯機のある脱衣所を覗き込む。
まだ絶賛すすぎ洗いをしている最中だが、乾燥機のセットも済ませているので、帰る頃にはふわふわの洗濯物が迎えてくれるはずだ。